第3 要件事実の設問
要件事実の設問が,一番配点が高いらしい。
要件事実の設問は,要件事実の摘示と,要件事実の説明からなる。
要件事実の摘示は,すべてのブロックについて要求される。要件事実の説明は,一部のブロックについてのみ要求される。要件事実の説明の問題は,主張自体失当の問題と組み合わさって出題される。
2 要件事実の摘示の設問
(1)摘示の注意点
記載方法は,『起案のガイド』参照。別紙もあるので,こちらも読む。
イ 摘示の留意点
・ぎりぎり最小限の事実を記載する。
・要件であるのなら,過去の日時の到来など,普通はわざわざ主張しない事実も摘示する。
・具体的な事実を記載する。評価や抽象的事実は,記載しない。
・法律行為の本質的要素は,すべて記載する。
要物契約の場合,貸借型の場合に注意。
それ以外は,冒頭規定を(基本的には)文字通り読めば,そんなに外れない。
・時的要素はもれなく記載する。
解除の意思表示はいつからいつまでの間でなければいけない,等。
基本的に,日時は記載しておくとよい。日時が時的要素でなくても,時的因子として記載してもいいので,過剰主張にはならない。
・別の要件の場合,基本的には,別の項目で書いた方が,わかりやすい。たとえば,売買契約の期限の定めを摘示する必要がある事案であっても,期限の定めは売買契約の本質的要素ではないので,別項目にする。
ウ 主張の見出し
(ア)主張には,見出しを付ける。請求原因についてはそれが複数ある場合,抗弁以下についてはすべての場合。
(イ)見出しは,他の主張と区別することができるものでなければならない。
code:例
「抗弁1 占有権原 転貸借(承諾)」
「抗弁2 占有権原 転貸借(背信性なし)」
(ウ)その主張の一つ上流が複数に分かれているなら,対象となる主張を明記する。請求原因が複数ある場合の抗弁や,抗弁が複数ある場合の再抗弁の場合。
code:例
「再抗弁1 背信性なしの評価障害事実(抗弁2に対して)」
(エ)予備的主張の場合(許されたa+b)は,見出しを記載するとともに,それがどの主張を前提とするかを明記する。
(ウ)により必要があれば攻撃防御の対象となる主張を明記する。
「予備的主張」というタイトルは不要。
code:例
抗弁2が,抗弁1及び再抗弁1を前提とする予備的主張,見出しが○○○○,(複数ある請求原因のうち)請求原因1に対する抗弁である場合
「抗弁2 ○○○○(抗弁1及び再抗弁1を前提として・請求原因1に対し)」
※ 予備的主張になるかどうかは,ブロックを組んだ上で,その事案においてすべての要件事実が他の主張に含まれているかをチェックする。94条2項だから予備的主張だ,みたいには考えないこと。
エ 規範的要件の摘示
・評価根拠事実,評価障害事実が主張事実。
code:指針
ⅰ 評価根拠事実,評価障害事実は,時点に注意。
(いつからいつまでの事実でなければならないか。)
ⅱ 過剰主張をしてもよい。
ⅲ 評価根拠事実と評価障害事実は,両立しなければならない。
ⅳ あくまでも事実を記載する。評価は削る。(神経質にならなくてもよい。)
※民裁主張整理起案では,規範的要件は,主張書面のどこかに,それと分かるように,まとめて書いてある。したがって,規範的要件の摘示は,主張書面のその箇所を発見し,適宜切り分けた上,上のⅰからⅳに照らして,記載してはいけないものを除外する,という手順によって行えばよい。
code:規範的要件摘示の手順
(1)規範的要件が記載してある箇所を見つける。
(2)長い事実は切り分ける。
(3)ⅰ~ⅳに照らして,記載してはいけないものを除外する。
(4)残ったものを記載する。
(2)勉強方法
code:勉強方法
ⅰ 練習を重ねること
ⅱ デイリー六法を使いこなすこと
ⅰ 要件事実の摘示は,練習次第。
『問題研究要件事実』は,15題の言い分を,3周は回したい。
『事実摘示記載例集』は,はじめの方に載っている表のようなものだけを見て,要件事実を記載してみる。全部できれば,だいたい大丈夫。
ⅱ デイリー六法は,二回試験の友。
条文から要件事実を推測するスキルを鍛えておくとよい。
そのためには,普段から,条文を引いて,条文から要件事実をひねり出す練習を。
(3)ちょっと変わった要件事実
3 要件事実の説明
(1)基本的な考え方
ア 実体法(≒民法の条文)から考える
教官室は,実体法から考えていくことを求めている。
とはいえ,これはそんなにたいしたことではなくて,姿勢を示すか示さないかの問題である。
実体法から考えていることを示すには,
code:指針
ⅰ 検討順序を守ること
ⅱ 折に触れて条文を指摘すること
の二点に留意するとよい。
イ 入れ子構造
要件事実は,入れ子構造になっていることが多い。その構造をとらえて,わかりやすく論じていく。 (2)実体法から考えていることを示すための検討順序
ア 検討順序「5つのステップ」(チェックポイントとして)
すべてを記載しなければいけないわけではない。
しかし,以下の検討順序は,チェックポイントとして活用できる。記載することがあればこの順番で記載する。
よって,暗記しておくことが望ましい。
code:「5つのステップ」
ⅰ 実体法上の要件
ⅱ 主張立証責任の振り分け
ⅲ 条文による主張立証責任の転換の指摘
ⅳ 同一系列の上流で既に現れている事実の指摘
ⅴ 要件事実摘示のルールに従った調整
イ 説明
ⅰ 実体法上の要件
まずは,要件事実から離れて,実体法上の要件を記載する。その際は,条文があるなら,必ず条文に言及する。(条文は,獲物です。) code:例
……権の実体法上の発生要件は,民法○○条によれば,(a),(b),(c)の三つである
ⅱ 主張立証責任の振り分け
実体法上の条件のうち,請求原因(抗弁・再抗弁)で主張しなければならないものはどれか,を考える。
ここでも,実体法の解釈から主張立証責任を振り分けるのが本筋。
消極事実の立証が難しいから,といった訴訟法的な観点は,修正要素として位置づけるべき。
code:例1
このうち,請求原因としては,(a),(b)のみが必要であり,(c)の反対事実が抗弁となると考えるべきである。なぜなら,民法○○条は……という趣旨の条文なので,実体法上,……と解釈されるからである。
code:例2
民法○○条の条文の文言からすれば,要件(c)は,ただし書に定められているので,消極要件として,抗弁となるべきである。
ⅲ 条文による主張立証責任の転換の指摘
次に,条文によって主張立証責任が転換するものを指摘する。法律上の事実推定,暫定真実等の説明を加える。条文も必ず指摘する。 code:例
実体法上の要件のうち,(d)については,民法○○条により,請求原因で主張する必要はない。民法○○条は,暫定真実の条文であるから,その反対事実が抗弁となるべきだからである。
ⅳ 同一系列の上流で既に現れている事実の指摘
次に,同一系列の上流で既に現れている事実を指摘する。上流に既に現れていれば,改めて事実を摘示する必要はない。むしろ,摘示してはいけない。 ※同一系列の上流とは,その大ブロックが前提とする大ブロックのこと。枝分かれしているときに注意。 code:例
要件(b)については,既に請求原因(あ)で現れているので,ここで摘示する必要はない。
ⅴ 要件事実摘示のルールに従った調整
権利自白の説明や,どこまで具体的に記載するか,の検討など。 code:例
民法446条2項で要件として求められているのは,「書面」であるが,事実としては,「貸金契約証書」の「連帯保証人欄」なので,その事実を要件事実として摘示した。
最後に,結論
以上をふまえて,要件事実の結論をまとめる。起案においては,要件事実の摘示の項番号を引用するだけでよい。
code:例
以上から,請求原因(あ)~(か)のとおり,整理した。
(3)入れ子構造について
ア 入れ子構造とは
要件事実は,入れ子構造になっていることが多い。
入れ子構造とは,たとえば,請求原因として,1,2,3の三つが要件となるとき,3の要件として,(1),(2),(3)が必要となり,さらに,(3)の要件として,ⅰ,ⅱ,ⅲが必要となる,というような構造のことである。
https://gyazo.com/76d9bdc29997029ed8acd87a9b057efc
イ 賃料不払のため,賃貸借契約終了に基づいて,建物明渡しを求める場合の例
賃貸借契約に基づく目的物返還請求権としての建物明渡請求事件を考えてみる。
賃貸借契約の終了原因は,賃料不払による履行遅滞解除とする。
(ア)賃貸借契約終了に基づいて建物明渡しを求めるためには?
まず,賃貸借契約終了に基づく目的物返還請求権としての建物明渡請求権の要件事実は,
code:一番大きな箱
1 賃貸借契約の締結
2 基づく引渡し
3 賃貸借契約の終了原因
これが一番大きな箱になる。
(イ)賃貸借契約の終了原因は?
次に,本件においては,「3 賃貸借契約の終了原因」は履行遅滞解除。
(ウ)解除の要件は?
解除の要件は,民法540条1項によると,
code:次の箱
(1)解除権の発生原因事実
(2)解除の意思表示
これが次の箱。
(エ)履行遅滞解除の要件は?
そして,「(1)解除権の発生原因事実」としては,民法541条の履行遅滞なので,
code:(1)の中の箱
ⅰ 一定期間分の賃料支払債務の発生原因事実
ⅱ その履行遅滞
ⅲ 催告
ⅳ 催告後相当期間の経過
これがさらにその中の箱。
(オ)履行遅滞解除の中身の要件は?
さらに,「ⅰ一定期間分の賃料支払債務の発生原因事実」として,
code:ⅰの中の箱
(ⅰ)賃貸借契約の成立,基づく引渡し
(ただし,既に1,2で出ているので不要。)
(ⅱ)一定期間の経過
これが一番小さい箱。
また,「ⅱ履行遅滞」として,民法412条1項により,
code:ⅱの中の箱
(ⅲ)確定期限の合意
(ただし,民法614条があるので,不要。)
(ⅳ)確定期限の経過
これも,一番小さい箱。
(カ)最終的な要件は?
このようなプロセスを経て,最終的な要件が,
code:最終的な要件
あ 賃貸借契約の締結
い 基づく引渡し
う 一定期間の経過
え 支払時期の経過
お 催告
か 催告後相当期間の経過
き 解除の意思表示
図:箱の構造
https://gyazo.com/f5a18798f26d906fedf3de950d1c3dab
ウ 入れ子構造と論述の構成
要件事実を説明する際は,入れ子構造を念頭に置いた上で,大きな入れ物ごとに,ひと項目を作って論じるのがよい。
上の例なら,次のような構成が一例として考えられる。
(なお,各項目の中では,①実体法上の要件~⑥結論までの検討プロセスを書く。)
code:構成例
第4 要件事実の説明
1 はじめに
賃貸借契約終了に基づく目的物返還請求権としての建物明渡請求権の要件事実は,大きく分けると,
①賃貸借契約の締結
②基づく引渡し
③賃貸借契約の終了原因事実
の三つである。
2 賃貸借契約の締結
(1)賃貸借契約の性質について
(2)……
3 基づく引渡し
4 終了原因について
(1)本件の終了原因
(2)賃料債務の発生について
(3)その履行遅滞について
(4)催告と相当期間の経過について
(5)解除の意思表示について
5 まとめ
以上から,請求原因(あ)から(き)のとおり,摘示した。
(4)説明するブロックの特定について
指示された主張を含む大ブロック全体を説明する。
4 主張自体失当の説明
(1)要件事実の説明と主張自体失当の説明
この二つは,セットで出題されることが多い。(3)で説明するとおり,表裏の関係にある。
(2)二種類の主張自体失当
主張自体失当には,二種類ある。
code:主張自体失当の種類
①誤った法的見解に基づく主張,
②法的に意味のない主張。
このうち,起案において説明を求められるのは,たいてい,①誤った法的見解に基づく主張のほうである。
これは,実体法の解釈(条文・判例・通説)によれば必要な要件の主張が抜けている場合を言う。
(3)主張自体失当問の書き方
そこで,主張自体失当である理由を説明する際は,「実体法を解釈すると,本来ならこの要件が必要なのに,当事者の主張にはその要件に該当する事実の主張がない。だから,主張自体失当。」という感じになる。
この説明中,「本来ならこの要件が必要なのに」という部分は,まさしく,要件事実は何になるか,の説明と一致する。そして,「当事者の主張にはその要件に該当する事実の主張がない。」の部分は,単に当事者の主張を指摘するだけである。
したがって,主張自体失当問でも,要件事実の説明と同じ検討プロセスを経てから,同じように記載すればよい。
(4)出題の傾向
ア 総論
出題の傾向としては,条文には直接書いていないが,判例や通説を前提にすると必要となる要件が抜けている,というパターンが多い。
イ 頻出分野
よく出題される分野は,同時履行の抗弁権関係。存在効果説を前提にすると,要件として履行の提供が必要,というやつ。相殺と債務不履行解除で問題となる。